開催日時:2016年8月29日(月)9:00 - 11:00
場所:九州産業大学
企 画 者:下田節夫(幡ヶ谷カウンセリングルーム)
司 会 者:岡村達也(文教大学)、高橋紀子(福島大学)
話題提供者:野島一彦(跡見学園女子大学)、下田節夫(神奈川大学)
指定討論者:松本剛(兵庫教育大学)、吉村麻奈美(津田塾大学)
(1)「グループ研究会」(以下「G研」)の成立
「G研」の成立には、二つの切っ掛けがあった。一つは、福岡にあって長年エンカウンター・グル-プの実践と研究に携ってきた野島が関東に移動したこと、もう一つは、やはり東京で長くベイシック・エンカウンター・グループ(以下BEG)を実践してきた下田が、嘗て保坂享とBEGの実践と研究に打ち込んでいた岡村にBEGの実施を持ちかけ、それを始めていたことである。下田と岡村は野島と共にグループにかかわる機会があるとよいと思っていたところに、野島が岡村に声を掛けるという流れがあり、共に活動しよういうと運びとなった。
その最初の企画は、2013年2月に三國牧子の協力を得て行った、人間性心理学会関東部会主催の「エンカウンター・グループのファシリテーター養成について語り合う会」であった。この会は、広く関東一円、さらに全国で様々なグループを実践している方々に呼びかけた結果、21名の参加を得て実施することができた。参加者たちがかかわっていたグループの活動領域は、学校・教育センター・クリニック・病院・福祉センター・就労支援機関・司法機関・民間のカウンセリング研修機関・カウンセリングルーム・様々な病気のサポートグループなど、多彩であった。
会は全体で5時間、野島と下田のプレゼンテイションに続いて、グループ実践に関して、参加者ぞれぞれの実践、ファシリテーター、グループのプロセス、雰囲気、理論、構造など様々な観点から自由な話し合いがなされたが、ファシリテーターの「養成」という用語には違和感が表明されたのが印象的であった。
この会合を実施して思ったのは、何らかの形で、様々なグループを実践している人たちが集まって話し合う会合に意味があるだろう、ということであった。そこで、髙橋にも声を掛けて立ち上げたのが「G研」である。その後、後に述べる「学生EG」に共にスタッフとして参加した吉村が2016年に加わり、現在の構成員は5名である。
(2)様々な活動
以来、ほぼ1~2か月に1回のペースで、様々な活動を行ってきた。
「語り合う会」
ファシリテーターについては、「養成」よりは、まずそもそもの考え方・振舞い方について語り合うことにした方がよいのではないかと考え、2013年4月に「グループ・ファシリテーションを語り合う会」を行った。こうして、その後も、その都度の関心や流れに応じた様々なテーマについて「語り合う会」を催してきた。「グループの『構成』と『構造』について考え・語り合う会」(7月、コメンテイター高良聖)、「グループ・ファシリテーションを語り合う会」(10月)、「下田論文を読み解く会」(2014年3月)、「グループ・ファシリテーションを語り合う会」(7月)、「グル―プにおける傷つきについて語り合う会」(2015年10月)などである。
こうした「語り合う会」は、参加者がそのときどきに思ったことを率直に語る形で進められる。テーマは回によって様々であるが、雰囲気は総じて柔らかく、ほぼいつもBEGのような展開が起きるように思われる。例えば、「下田論文を読み解く会」では、「下田論文」の主眼はグループにおける安心感にあったが、話し合われた内容の一つはグループが安全ではなかった体験であり、しかもそれが参加者の二人から語られたのだった。つまり、「会」のその場で参加者の心に浮かんでくることが自然に語られるのが常だ、と言えそうである。
BEG
「G研」では、実際にBEGも催してきている。その中には、「通常」のBEG(2013年12月)だけでなく、グループスタッフ経験者のグループ(2013年12月、2015年12月)、長期の4泊5日EG(2104年12月)など、やや特殊な形のものもある。
「学生のためのEG」
対象を学部学生と大学院生に絞ったBEGも実施してきた(2015年2月、2016年2月)。これは一つには、1980年代頃までは全国の多くの大学で行われていたBEGが年を追って下火になり、最近ではほとんど実施されなくなってきているのを惜しんで、大学外の主催で学生のためのグループを行おうとする目的と、もう一つには、これから臨床にかかわろうとする大学院生に、恐らくそのベースとなると思われるBEGを体験しておいてほしいという願いから、思いついた企画である。毎回1グループの成立に留まっているが、今後も継続してゆきたい。
「スタッフに研修ファシリテーターも参加するBEG」
恐らく「G研」独自のプログラムではないかと思われるものとして、「研修ファシリテーター」にスタッフ・チームに入ってもらい、「G研」のスタッフと全く対等にグループにかかわってもらう、というものがある(2014年8月、2015年8月)。これは、グループの準備段階から参加してもらい、グループ中はもちろん、終了後も反省会までフルにかかわってもらう形を取る。こうして、単に狭い意味でのグループプロセスに留まらず、その構造づくりや、スタッフのチームビルディングを含めて、グループ運営のすべてを「G研」スタッフと一緒に体験しながら「学んで」もらおうとするものである。
「グループ事例の検討会」
さらに、「グループの事例」を検討する会も開いてきている。これには、参加者の方から、BEGに限らず事例を提供してもらい、それを会の全員で検討するもの(2013年11月、2014年2月、2014年11月)と、「G研」スタッフが(BEG)事例を提供するもの(2015年4月、2015年6月)がある。後者では、一事例について5時間かけて検討してきている。
学会での「(自主)シンポジウム」など
また、日本人間性心理学会での「自主企画」(2013年9月「グループ・ファシリテーションを語り合う集い」、2014年10月「グループ臨床体験を語り合う集い」)や、日本心理臨床学会での自主シンポジウム(2015年9月「エンカウンター・グループのオーガナイザーの役割」)も行っている。
(3)今後の課題と未来への抱負
以下、5名それぞれの課題意識と抱負を述べることにする。
下田…グル-プは今後も多くの領域・場面で実施されてゆくと思われるので、それらとの広い交流を保ちつつ、それらの深いベースになると考えられるきちんとしたBEGの体験をなるべく多くの方に体験していただけるよう、工夫と努力を重ねてゆきたい。
野島…BEGの多様な領域での実践、BEG体験の丁寧な検討、BEGのファシリテータの養成を行っていきたい。とりわけ、今後を担っていかれることになる若手、中堅の方々と一緒にそのようなことに取り組んでいきたい。
岡村…15年ぶりのEG再開、よかった! 様々の挑戦は、時間的・体力的にしんどかった。“良質の”グループ経験の場、グループ経験交流の場、グループ・ファシリテーター養成の場を提供し続けたい。グループ経験は、臨床においても臨床教育においても必須と思う。
髙橋…学びたい人に広く開かれた学びの場として魅力を感じている。ファシリテーターは養成されるものなのかという問い、そして普段ファシリテーターとしてグループに携わることの多い人がメンバー体験をすることの意義について考え、取り組んでいきたい。
吉村…「学生のためのEG」にスタッフとして参加し、強く手応えを感じた。まずは自分自身が研鑽を重ねつつ、特に大学という場でのグループの活用について、そして良質のグループ体験とはどのようにもたらされるかということについて、追求していきたい。